老いの事を考える。五木寛之、大江健三郎、辻井喬、吉村昭、日野啓三と自分の父や長兄にあたるような世代の人の小説やエッセイばかり読んでいる。こうした本は現在は販売という意味では多くがあまり売れないから、函南や沼津の新刊書店では置いていない。だから図書館かアマゾンの古本を買うということになる。ある作家を読むとその友人、知人などその作家の周辺の人の話が出るから、読んでいない人に当たるとそれをアマゾンで買うとか図書館で拾うという繋がりで、新たな地平が自然に広がるからいくらでも読書はできる。彼らは既に鬼籍に入った人も多く、元気な人も既に鬼籍を意識して残りの命をテキストの成立に命がけだから売るために書くという力の入りかたは無い。その脱力しているが、何かを憂いたり、後に残るものを心配する眼差しは大人だなと思う。老いるという自覚をどのように彼らは確認するのだろう?五木は大の車好きだったから運転を諦めたのは何故なのかをエッセイで書いていた。
仕事で東京と関西を頻繁に往復することの多かった彼は、新幹線によく乗った。そしてひかり号が通過する駅の駅名の掲示板の名前を読むというのが趣味だったが、いつからかそれが読めなくなったという。動体視力の低下である。駅名の順序は無論すべて記憶しているから次が何かはわかるのだがそれが視覚として読めないという状態になった時に、好きな車を止めたという。利口な人である。己を知っている。趣味のもつリスクとそれ以外に軽々と心の方向を変えることの軽妙さ。「俺は若いから大丈夫」なんて粋がって無理をするのがアンチエイジングなんだという阿呆が多いなかで頭の良い人なんだなと思う。どこかの頭の悪そうな俳優を若作りにしてサプリメントの広告に使っているのを見ると、大衆はこうやって死ぬまで騙されるのが嬉しいのだろうなあ、、とため息が出る。趣味というのは単なる暇つぶしだから対象の問題ではない。心が遊ぶということが出来ればなんでもその人なりの趣味になる。だから趣味に高尚も低俗もない。金も関係ない。対象に対して自分の向き合い方の問題ということである。いかに真剣かというだけのことだろう。真剣になればやるほど疲れるから、後でホッとする。それは良い息抜きとなるはずだ。
料理は生活だから趣味とは言えまい。それでも凝ればいくらでも凝れるから、作った食事が新しい味となることは新鮮な感覚となる。プロの料理人は、素材、温度、組み合わせなどどうやったらそれらしい美味しいものが出来るのかという定石を知っている。だから料理の全く出来ない人でも、ある人のレシピ集を全ページその通りに作ってみるという経験を面倒がらずにやってみれば、今までとは異なった家庭料理というものが食卓に並ぶことになる。難しいことはしなくても良いのだ。最近は男も料理をするようになった。単身赴任とか生涯独身とか状況の変化もあるのだろうし、マダムや彼女が料理をしなくなったという事情も関係するのかもしれない。我が家の娘の料理はド下手である。たまに山に遊びにきて野菜炒めひとつやらせても旨くない。亭主がかわいそうだとおもう。仕事と子育てに忙しいから料理どころではないのだろう。だから代々木上原の「ジーテン」という吉田勝彦さんの中国料理店に連れて行って、こういうのが旨いというのだと奢ってやったことがある。お店で「せんぶ10分のフライパン料理」という彼のレシピ集があったのでそれを買って与えた。炒める、蒸す、焼く、揚げる、煮るを全部10分程度でフライパン一つで出来る優れたレシピ集で、このおかげで僕の食卓は随分と豊かになった。たった1600円の本を読んだおかげで美味しい中国料理を堪能できるのだから、こんなに簡単で安い投資は無いと思う。これで孫たちの味覚が少しはマシになるんだろう思う。
春はバジルやルッコラ、パセリなどをプランターに植える季節だ。この種のハーブは肉料理やピザなど洋風料理にはかかせない。ハーブ一つで料理の風味が劇的に変わるし、たくさん必要なものではないから、毎春苗を買って来て植えることにしている。だから春から秋まではテラスはそんなハーブのプランターで賑わう。これも植え方の本を買ってきて、古い土を日光消毒して追肥をして植えるということになる。土をいじるというのは50年ぶりぐらいじゃないかと3年前に思った。それぐらい都会の生活に土というものが無くなって久しい。土の粒子や匂い色、そんなものを意識するような生活環境になかった時間が50年も続いていたということなのだ。いずれ人は土や灰に帰るはずだから今のうちに自分の行く末を見ておくもの良いだろうと思っている。
日野啓三の「砂丘が動くように」を読み始めた。東大の共産党細胞である辻井は日野を回顧録で書いていて、僕は日野を知った。静謐なテキストである。読み始めて無償に砂丘が見たくなった。そのうちに鳥取にでも飛ばすかな。
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