日記 - 詳細表示 - 猫次郎のなんたらかんたら書き放題

習慣を作ると楽だ。例えば朝食。僕はパンが好きなので、上手いパン屋に行くと必ずバケットかクロワッサンを買うことが大半である。小麦粉とバターの使い方がそのパン屋の特徴であり、それでそのパン屋の性格が決まる。生地の特徴が、詳しく言えば小麦と水と塩と砂糖と酵母の関係性（発酵時間を含めて）の決定項がパンを食べる楽しみである。だからパルマ産の贅沢な生ハムと新鮮なレタスとリコッタチーズをのせたオープンサンドを食べるという僕の習慣は朝食とランチの中間当たり、１１時から１２時ぐらいの時間のささやかな祝祭となる。オニオンスープとザクロのジュースにイチゴを３つ。あき姫という品種は静岡産の甘みの強い早生のイチゴで１月が旬である。夜遅く、もう朝に近いぐらいの３－４時頃まで好きな本を読んで寝坊した日には起きると１０時を廻っている。寝ぼけた頭で風呂のスイッチを入れて温泉が沸くのを待つ間にコーヒーを入れる。朝は濃いカフェオレをたっぷりと飲みながら、甘える猫に朝飯を与える。すると今度は猫はトイレをすませると早速睡眠を取り始める。大抵は脱ぎ捨てた僕のカシミアのセーターが彼の寝床である。一体何枚僕は猫のためにカシミアのセーターにかぎ裂きをこしらえた事だろう。つい最近買ったバーニーズNYのグリーンの美しいタートルネックのイタリア製のカシミアもやられた。７－８枚はやられたろうが、まあそのうちまとめて修理に出すことにしよう。冬の間は穴の開いたカシミアセーターをだからいつも着ることになる。修理代は２センチで３０００円だから３０㎝（７枚だと４センチ平均として）５万ぐらいは払うことになる。でもそれで修理屋さんの手間賃はGDPに反映されるのだから、我が家の猫も経済的には立派なお仕事をしているということだ。

　朝食を作ったら、ダウンを着てテラスに出て、山を見ながらご飯をゆっくりと食べる。窓際に置いたMACからはピアノが流れてくる。Henrik Gunde Trio　You don't know what love is. 実にごご機嫌なナンバーである。あのじらすような指さばきは、そしてあの１／１６ぐらいのもたつきが好ましい。同じ曲をキースが弾いても同じ曲とは思えないというところが個性という事だろう。好みの問題である。両方好きな男がいてもそれを非難するのは非道徳と言えるだろう。習慣とはそういうモノであるし、個人的な好みを標準化する思考が資本主語とカソリックの相似的な錯誤であるから大衆とは制度的な無知の大量生産機械である。ジョンアービングはラムダ賞を取ったが、彼の性的なマイナー指向（バイセクシュアル）の尊重はリベラルの鏡である。自分の好みを標準としてマイノリティーを排除する、まあ民主制の典型的悪弊だが、群れることしか知らない大衆とは本来そういうものなのだろう。

　富士山の南には南アルプス連峰の冠雪が眩しい。手前にあるのが愛鷹山である。山頂付近にまだ雪は無いが、霜で歩行にはアイゼンが必要だからしばらく山歩きはお預けで、読書の日々である。養老さんが、小中学生は参勤交代のように一年を半年ずつ、田舎と都会で交代で生活させるのが良いと言っていた。彼の虫好きは病気のレベルで、本の印税で何億か稼いで、箱根に虫の標本を置くために博物館を作ってしまった。好きでないと誰もこうまではしないだろうが、都会の子供が田舎に行けばショックを受けるし、田舎の子供は都会からたくさん子供がくればまたこれはこれで刺激を受ける。様々な今とは異なる問題が起きるだろうが、自分たちだけが中心で標準で平均で真実だとは誰も信じなくなるという点だけは都会の子供も田舎の子供も感じるに違いない。多様性とはそういう事であり、同じ事ばかりを過剰にするから群れは滅びるのだ。異質性が生存戦略の基本であるという種の唯一の事実を日本人はすぐに忘れてしまう。だから田舎の子供が成人して都会の大学に行き、そこでしばらく働いて、やがて故郷に戻るというのも自然で良いだろう。都会の子供が田舎の大学に行って、そこで相手を見つけてペアとなって田舎に住み着くというのも良いだろう。ハイブリッドのほうが純粋種の何倍も生き残る確率が高いのは、生存特性と突然変異が起きるからだ。だから今の若い日本のギャルが外国人と結婚したり、子供を産むのは最も生存上は優れた選択であることは確実だろう。オノヨーコのような、あるいは桐島洋子のようなハイブリッドな生存戦略をすることのほうが当然なのだと思う。田舎の山頂で、貧乏なリーマンたちが下らない会議や事務をしている最中も、こうして好きな事をしていると良い考えも浮かぶ。同じようなことを２０００年ほど前に釈迦も考えていた。

林住期という概念で、家族や子供の為に働いて一段落したら、あとは林や山に入って自分のこれまでとこれからをゆっくりと考えたり感じたりしながら生きる時間帯のことである。ブッティストでは僕は無いが、ケルアックも晩年は山暮らしを書いている。五木寛之も同様だ。BMWに飽きたら、多分人は山に籠るのかもしれない。